印象の記録

カテゴリ:寺田寅彦へのオマージュ( 5 )

寺田寅彦へのオマージュ

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寺田寅彦「子猫」より

私は猫に対して感ずるような純粋なあたたかい愛情を人間に対していだく事のできないのを残念に思う。

そういう事が可能になるためには私は人間より一段高い存在になる必要があるかもしれない。

それはとてもできそうもないし、かりにそれができたとした時に私はおそらく超人の孤独と悲哀を感じなければなるまい。

凡人の私はやはり子猫でもかわいがって、そして人間は人間として尊敬し親しみ恐れはばかりあるいは憎むよりほかはないかもしれない。
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by asnaro444 | 2011-11-24 21:07 | 寺田寅彦へのオマージュ

寺田寅彦へのオマージュ

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寺田寅彦「備忘録」より

来そうな夕立がいつまでも来ない。

十二時も過ぎて床にはいって眠る。

夜中に沛然たる雨の音で目がさめる。

およそこの人生に一文も金がかからず

無条件に理屈なしに楽しいものがあるとすれば

おそらくこの時の雨の音などがその一つでなければならない。
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by asnaro444 | 2011-11-18 23:22 | 寺田寅彦へのオマージュ

寺田寅彦へのオマージュ

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寺田寅彦「自画像」より

いつか一度は「自分のかいた絵」を見たいということであった。
世界中に名画の数がどれほどあってもそれはかまわない。
どんなに稚劣でもいいから、生まれてまだ見た事のない自分の油絵というものに対して見たいというのであった。
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by asnaro444 | 2011-11-14 19:25 | 寺田寅彦へのオマージュ

寺田寅彦へのオマージュ

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寺田寅彦『柿の種』より

気象学者が cirrus と名づける雲がある。
白い羽毛のようなのや、刷毛で引いたようなのがある。
通例、巻雲(けんうん)と訳されている。
私の子供はそんなことは無視してしまって、勝手にスウスウ雲と命名してしまった。
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by asnaro444 | 2011-11-09 22:32 | 寺田寅彦へのオマージュ

寺田寅彦へのオマージュ

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寺田寅彦『柿の種』より

 日常生活の世界と詩歌の世界の境界は、ただ一枚のガラス板で仕切られている。
 このガラスは、初めから曇っていることもある。
 生活の世界のちりによごれて曇っていることもある。
 二つの世界の間の通路としては、通例、ただ小さな狭い穴が一つ明いているだけである。
 しかし、始終ふたつの世界に出入していると、この穴はだんだん大きくなる。
 しかしまた、この穴は、しばらく出入しないでいると、自然にだんだん狭くなって来る。
 ある人は、初めからこの穴の存在を知らないか、また知っていても別にそれを捜そうともしない。
 それは、ガラスが曇っていて、反対の側が見えないためか、あるいは……あまりに忙しいために。
 穴を見つけても通れない人もある。
 それは、あまりからだが肥り過ぎているために……。
 しかし、そんな人でも、病気をしたり、貧乏したりしてやせたために、通り抜けられるようになることはある。
 まれに、きわめてまれに、天の焔《ほのお》を取って来てこの境界のガラス板をすっかり熔かしてしまう人がある。
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by asnaro444 | 2011-11-04 16:52 | 寺田寅彦へのオマージュ